6センチ以下の刃物×軽犯罪法(凶器隠匿携帯罪)

十徳ナイフ

これまで、主として刃渡り15センチ以上の片刃か5.5センチ以上の諸刃の鋼質性の武器が対象となる「刀剣類所持罪」と、これに著しく類似した形態の非鋼質金属が対象となる「模造刀剣類携帯罪」と、刃体の長さ6センチを超える刃物が対象となる「刃物携帯罪」があることを見てきた。これらはいずれも銃刀法違反であり、違法状態で見つかれば現行犯逮捕される可能性が高い。しかし、これらのいずれにも当たらない刃物であっても罪に問われる可能性がある。それが軽犯罪法の「凶器隠匿携帯罪」である。こちらでも、住所不定や氏名不詳、逃亡のおそれがあると認められれば逮捕されることもあり得る。

軽犯罪法第1条2号には「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、これを拘留又は科料に処する。」とある。刃渡りとか刃体の長さは関係がなく、たとえ6センチ以下の刃物でも対象となる。しかも、刃物のように本来凶器としての性質があるもの(性質上の凶器)に限らず、バットや工具など使い方によっては凶器となり得るもの(用法上の凶器)全般が対象となる。催涙スプレーやネットランチャー、スタンガンなどの護身用器具も場合によっては対象となり得る。

ここでいう「正当理由」については銃刀法の「刃物携帯罪」のそれとほぼ同じであるが、唯一違う点として、こちらでは「護身用」が正当理由となる場合があることだ。健康増進のため夜間にサイクリングをするのに護身用の催涙スプレーを携帯していて「凶器隠匿携帯罪」に問われた事案で、最高裁が「正当理由」があるとして無罪判決を下したケースがあるのだ。但し、催涙スプレーなら常に携帯OKというわけではない。ケースバイケースであることに注意が必要である。女性が夜間に持ち歩くなら問題ないであろう。

ここでいう「携帯」についても銃刀法の「刃物携帯罪」のそれと同じく、自宅以外の場所で直ちに使用できる状態で身辺に置くことをいう。厳重に梱包するなどして直ちに使用できない状態であれば、自宅以外の場所で持ち運んでいても単なる「運搬」であって「携帯」ではないことも同じだ。

違う点は、さらに凶器を「隠して」携帯している場合(隠匿携帯)に限られていることだ。ことさら人目につかないようにした状態で、という意味であり、人から見えないという状態と隠す意思があることが必要だ。つまり、キーホルダー型の十徳ナイフを人から見えるよう腰ベルトから下げるなど「公然」と携帯している場合はここでいう「隠匿携帯」にはならない。人に警戒心を与えることで危険性が低くなることが理由であるとされる。もっとも、これ見よがしに凶器を見せびらかしながら歩けば、ここでいう凶器隠匿携帯罪にはあたらなくても、脅迫など他の罪にあたるおそれがあることには注意が必要だ。

ここでも、凶器となり得るものをやむを得ず車に積む必要があるときは、厳重に梱包した上で車外から見えやすい場所に(例えば調理用ナイフなら、サヤに収め鍵をかけたケースに入れた上で、ダッシュボードやトランクなどではなく調理器具とともに座席に)置くことを心がけたい。これなら「隠匿」にも「携帯」にもあたらないであろう。

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