永平寺受戒会(初日・その3)

法堂(はっとう)内部

四時からは晩のお経である。とにかく読経の繰り返しである。僧侶たちの読経に合わせ、修行のつもりで皆、一心不乱にお経本を読む。お隣のベテランは、法華経の普門品(観音経)や寿量品などメジャーなお経は暗記しているようだ。私など最初ついていくだけで必死であったが、何回も繰り返すうちに慣れてくる。西琳寺の住職が言っていたが、これを朝昼晩毎日2年間繰り返せば、確かにいやでも覚えてしまうであろう。7日間でお経本にある超マイナーなお経も一通り二通り経験した。なお、一連の法要の時間は通常1時間前後であるが、短いと30分、長いと1時間半である。○○県○○寺の参拝団という方々が多く来られると、その先祖代々家の供養(焼香)が加わるので、それだけ長くなる。正座でなくてもよい。私はずっとあぐらをかいていたが、それでも足が痛くなってくる。ちなみに、永平寺では受戒会とは別に参禅修行という3泊4日の雲水修行を毎月開催しているが、こちらは1時間以上の正座ができることが参加条件であり、途中で挫折して下山する人も多いらしい。それでも毎月10日の受付開始と同時に予約の電話を入れないと直ぐに埋まってしまう人気のコースである。当然、参加者の年齢層は受戒会よりもずっと若い層である。

朝昼晩のお勤めのお経が終わると食事の時間である。ここでは食事を飯台(はんだい)と呼んでいる。朝食・昼食・夕食をそれぞれ小食(しょうじき)・中食(ちゅうじき)・薬石(やくせき)という。飯台は修行のひとつとして作法通りに進められる。法堂(はっとう)から大庫院(だいくいん)と呼ばれる部屋に移動すると、雲水たちが汁桶を持って待ち構えている。着席すると弁当箱とお椀が置いてある。まずは飯台導師と呼ばれる禅師が入場し、それぞれ聞槌(もんつい)・展鉢(てんぱつ)・五観(ごかん)・擎鉢(けいはつ)の偈(げ)という漢詩と十仏名(じゅうぶつみょう)を唱え、ようやく「頂きます」となる。弁当箱に入ったごはん(茶碗2杯分くらい)と野菜(煮物・揚げ・椎茸・海草・漬物)のおかずのほかには汁椀だけの精進料理である。時々わんこそばや果物、豆乳パックがつくこともある。肉や魚、卵などの動物性たんぱく質は一切ない。三黙道場のひとつであり、皆さん黙ってもくもく食べる。5分もすると「さいしん」と声がかかり、要するに汁椀のお代わりである。ごはんのお代わりはない。お代わりを希望する人が注いでもらっている間、希望しない人も箸を休めて待っていなければならない。また食べ始めて3分ほどで「じょうすい」と声がかかり、お茶の給仕が始まる。そのお茶でお椀を洗い、箸も洗う。2分ほどで「せっすい」と声がかかり、残したお茶を回収しに来る。餓鬼や衆生に施す意味があるらしい。ちなみに中食では生飯(さば)と言ってごはんも数粒を残すのである。回収が終わると折水(せっすい)の偈(げ)という漢詩を唱え、「ごちそうさま」となる。飯台導師をお送りし、弁当箱とお椀を重ねて終わりである。食べている時間は正味10分。たんぱく質が少ない食事であるが、炭水化物が多いため、意外とお腹がすくことはない。しかも、上げ膳据え膳であり、洗い物は雲水がやってくれるし、作法も厳しくないので、修行という感覚ではない。ちなみに雲水修行では応量器(おうりょうき)というマイ食器セットを用い、風呂敷での包み方をはじめ、一つ一つ厳しい作法に則って使用するらしい。

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