1 仏教とは何か

仏教とは人間釈迦(釈尊)が説いた教えである。

仏教には八万四千の法門(教えの形式)があるといわれる。仏の教え方は数えきれないほど多いという意味であるが、実際に釈尊が自ら説いた教えの中身としては、
1 人間をはじめ、形あるものはすべて変化してしまうのに -諸行無常
2 自分の思いどおりにできると勘違いして欲望するがために -無明による渇愛(集諦)
3 老死をはじめ、何一つ思いどおりにならないことが苦になるのだから -一切皆苦(苦諦)

 すべての物事は縁に依って起きる、実体ではないものだということを -縁起・諸法非我
5 悟るために正しい方法を実践すれば -八正道(道諦)
6 苦は自ずから消滅して安楽の境地に至る -涅槃寂静(滅諦)

という、とてもシンプルなものである。

教えの中身としてはこれだけである。
「諸行無常」「諸法非我」「涅槃寂静」 の3つをまとめて 「三法印」(さんぼういん)または 「一切皆苦」 を加えて 「四法印」(しほういん) とまとめられ、あるいは苦諦・集諦・滅諦・道諦の4つからなる「四聖諦・八正道」(ししょうたい・はっしょうどう)として整理されるが、釈尊自身は、これを真理に集約する哲学として説いたのではない。現世に生きる現実の苦悩をかかえた人々を救うため、これを逆に敷衍し、いろいろな比喩や方便も交えながら、それぞれの人がおかれた状況と受け答えに応じて臨機応変に説いたので(対機説法)、その教え方としては数えきれないほどになったのである。

このシンプルな教えの中でも核心といえるのは、
4 すべての物事は縁に依って起きる、実体ではないものである
という部分である。これを「縁起」という。同時代の他の教え(バラモン教や六師外道)と共通部分が多い仏教にあって、この核心部分だけは他の教えにはない釈尊のオリジナルであり、ゆえに「縁起」こそが釈尊が開いた悟りの内容であるとされるのである。従って、仏教において「悟り」とは「縁起」の発見以外にはない。
 この核心的教説である「縁起」は、後に大乗仏教の仏僧ナーガールジュナ(竜樹)によって「空」の哲学として体系化されたが、大乗仏教が中国に伝播する過程で、バラモン教への先祖返りや土着思想との混合が進み、神や超能力などの神秘思想の導入によって、釈尊が神格化されたり釈尊が禁じた呪術が導入されるなど、釈尊が生きた時代の仏教とは似ても似つかぬものになった。
 そこで、「空」の哲学として体系化された「縁起」は、インドから中国に西来した達磨大師に始まる一種の仏教原理主義運動によって、更に「無我」の思想として純粋化され禅として確立したのである。

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