止め刺し用やり×銃刀法(刀剣類所持罪・模造刀剣類携帯罪)

「剣」にあたる諸刃の武器

ハコ罠やククリ罠でイノシシを捕獲した場合、その後の処理はどうするか。この業界で超有名な片桐名人のように、暴れるイノシシを素手でつかんで寝技に持ち込み、生け捕りにしたまま持ち帰るという神業の持ち主は別として、自分の身を守るためには、まず「止め刺し」をしなければならない。

「止め刺し」の方法として、銃を使えない場合は「やり」を使うしかない。いわゆる電気やりは別として、刃がついた「やり」を売っている店はほとんどない。フクロナガサや使い古した柳葉包丁、剪定ばさみを分解したものなどで代用するか、金属板をグラインダー等で鋭利に削って自作するのが一般的である。

しかし、「やり」は銃刀法で「所持」が原則禁止されている「刀剣類」にあたるおそれがある。「刀剣類」とは性質上の武器、すなわち①刀・やり・なぎなた・剣・あいくち・飛び出しナイフといえる形態であること、②鋼質性の金属であること、③人畜殺傷機能を有すること、の3要件を備えたものをいい、そのうち、
「刀」については反りのある片刃で、刃渡り15センチ以上
「剣」については左右均整の諸刃で先端部が著しく鋭い、刃渡り5.5センチ以上
「やり」については棒状の長柄を付けて刺突を容易にする、片刃で刃渡り15センチ以上
のものなどが「刀剣類所持罪」(銃刀法第3条違反)の対象となる。

ちなみに、「剣」の諸刃(もろは)とは刃体のどちら側にも刃がつけられるもの(上の写真参照)で、断面がV字型を意味する両刃(りょうば)とは異なる。いわゆる秋葉原無差別殺傷事件を受けた平成21年施行の法改正により、刃渡り5.5センチ以上のダガ―ナイフやダイバーナイフなどが「剣」として新たに所持禁止の対象とされたことは記憶に新しい。

「所持」の禁止とは、よく問題とされる「刃物携帯罪」(銃刀法第22条違反)や「模造刀剣類携帯罪」(銃刀法第22条の4違反)などの「携帯」の禁止とは異なり、正当理由があろうがなかろうが、公安委員会の許可(または教育委員会の登録)がない限り、たとえ自宅で保管していてもアウトである。

なお、上記3要件を満たさない(性質上の武器ではない)刃物は、用法によっては人畜を殺傷可能な刃渡り15センチ以上の鋼質性の金属であっても、ここでいう「刀剣類」にはあたらない。例えば狩猟用のナガサや調理用の柳葉包丁などだ。刃渡り15センチ以上の包丁などいくらでもあり、30センチを超える牛刀や、マグロ包丁など1メートルを超えるものまである。このように、明らかに狩猟用や調理用であって「刀」や「剣」とはいえない形態の市販品を止め刺し用の「やり」に代用することは、実際上問題とされていない。

ところが、「やり」を自作する場合は、本人のつもりとしては狩猟用であっても「刀剣類」に当たるとされる可能性がある。上記の3要件を満たすものであれば、その製造目的を問わず、性質上の武器としての「刀剣類」にあたるからである。従って、やりを自作するには「刀剣類」にあたらないようにするか、刀剣類所持について事前に公安委員会の許可を受けるしかないと思われる(文化的価値がないため教育委員会の登録対象にはならない)。銃刀法では、狩猟や有害鳥獣駆除は公安委員会の許可を受けることができる理由とされているが、実際に許可を得るのは困難であると思われる。「刀剣類」にあたらないように自作すれば足りるからである。

ここで注意しなければならないのは、現に「刃」が付いているどうかは関係がないことである。「刃物携帯罪」(銃刀法第22条違反)の「刃物」とは異なり、たとえナマクラで切れない状態であっても「刀剣類」にはあたるのだ。従って、刃の一部を落として鈍にし、刃の付いた部分だけを15センチ未満にしてもダメなのである。刃があろうがなかろうが、あくまで切先から棟区(みねまち)までの直線距離で刃渡りを計ることになっているのだ。

では、どうすれば「刀剣類」にあたらないよう「やり」を自作できるのか。金属板をグラインダー等で鋭利に削る場合は、磁石に付かない金属(非鉄金属)で作るか、または純鉄(軟鉄)で作ればよい。そうすれば②鋼質性の金属であることの要件が欠け、少なくとも「所持」を禁止される「刀剣類」にあたる心配はなくなる。金属製である以上「模造刀剣類」(銃刀法第22条の4)にはあたり得るが、「所持」は自由であり、狩猟や有害鳥獣駆除のために「携帯」することも正当理由になるからだ。

一般に誤解されているが、「刀剣類」にあたるか「模造刀剣類」にあたるかは、刃が付いているかどうかではなく、鋼質金属で作られているか非鋼質金属で作られているかで決まるのである。

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